東京地方裁判所 平成8年(行ウ)269号 判決
原告
喜多商事株式会社(X)
右代表者代表取締役
喜多正男
右訴訟代理人弁護士
河崎光成
同
萩谷麻衣子
被告
東京都江東都税事務所長(Y) 宅間健
右指定代理人
江原勲
同
洗川文雄
事実及び理由
第三 争点に対する判断
一 特別土地保有税の納税義務免除制度の趣旨及びその要件該当性の判断基準について
1 特別土地保有税は、土地の取得及び保有に伴う費用を増大させることにより、土地の投機的な取得を抑制するとともに、土地の供給を促進することを目的として創設されたものであるが、投機目的で取得され、保有されている土地か否かの判断が困難であることなどから、当初は、当該土地の利用の有無を問わず一律に課税されることになっていたものである。その後、既に社会通念上相当程度の水準の利用がされ、最終的な需要に供されていると認められるような土地についてまで特別土地保有税を課すことは適当ではないという考慮から、かかる場合には、いったん発生した特別土地保有税の納税義務を免除することとしたが、具体的な個々の土地について、最終的な需要に供されているか、将来の売買を見越しての仮の利用に供されているにすぎないかの判断は困難であることから、その具体的運用における不公平を避けるべく、法六〇三条の二第一項は、前者であると推認できるものを納税義務免除の対象とすることにした。そして、昭和六〇年代初頭から東京都の中心部で顕著となった地価高騰に対処するため、平成三年改正において免除制度の特例が設けられ、令附則一六条の二の四第一号又は同条二号に規定する要件を満たさない駐車場、資材置場その他の土地自体の利用を主たる目的とする特定施設については、特別土地保有税の納税義務の免除の対象から除外されるに至ったものであるが、免除制度の特例を設けるに当たっても、右と同様の考慮から、特別土地保有税の納税義務免除の対象から除外されるものの範囲を外形的、客観的な基準(令附則一六条の二の四第一、二号)によって一律に画したものである。
2 以上のような特別土地保有税の納税義務免除制度の趣旨及びその規定に照らせば、当該土地が駐車場、資材置場等である場合に平成三年改正により読み替えられた法六〇三条の二第一項二号の納税義務免除対象土地に該当するか否かは、もっぱら基準日において、当該土地上に令附則一六条の二の四第一号又は二号に規定する要件に合致する建物又は構築物が存するか否かという外形的事実に基づいて客観的に判断すべきものと解するのが相当である。
二 本件土地に免除制度の特例を形式的に適用することの違法性の有無について
1 本件各土地上には、基準日において、令附則一六条の二の四第一号又は二号に規定する要件に合致する建物又は構築物が存しなかったことは前記のとおりであるから、特別土地保有税の納税義務免除の対象土地に形式的に該当しないことは明らかである。
2 原告は、本件道路の不法占拠により、本件各土地の最有効利用が妨害されているとして、そのような状況のもとで、本件土地に免除制度の特例を形式的に適用することは違法であると主張するが、本件土地が特別土地保有税の納税義務免除の対象となるか否かは、本件各土地上に令附則一六条の二の四第一号又は二号に規定する要件に合致する建物又は構築物が存するか否かという外形的事実に基づいて客観的に判断すべきものであることは前記のとおりであり、特別土地保有税の納税義務免除の対象となるか否かの判断に当たり、原告が本件各土地につきどのような利用計画を有しているか、あるいは、どのような理由でそれが基準日において実行に移されていない状態にあるのかといった、所有者の思惑や個別具体的事情については、考慮すべき事項には当たらないものというべきであるから、この点についての原告の主張は採用できないものというべきである。
3 原告は、東京都及び江東区において本件道路の不法占拠を放置しておきながら、それにより有効利用が妨げられ、最有効利用である倉庫等の建築ができない本件土地について特別土地保有税の納税義務を免除しないことは信義則に反すると主張する。しかしながら、原告の本件各土地取得以前から本件道路の不法占拠状態が継続していたこと、原告が、本件各土地につき、昭和六三年度から平成三年度まで、駐車場及び資材置場として、特別土地保有税の納税義務の免除を受けてきたことは前記のとおりであり、右の事実に照らせば、平成四年度の特別土地保有税について納税義務の免除が受けられなかった直接の原因は、本件道路の不法占拠が継続しているということにあるのではなく、平成三年改正により免除制度の特例が設けられ、それまでの本件土地に係る原告の利用形態が客観的に免除制度の特例のもとにおける特別土地保有税の納税義務免除要件たる外形的事実を満たさなくなったことによるものというべきである。そうすると、原告が本件処分の違法事由として主張するところは、本件土地につき特別土地保有税の納税義務の免除を得るには、本件土地の従前と同様の整備状況では足りず、検査済証を交付された建物等を必要とする免除制度の特例の不当をいい、あるいは、本件道路への出入りが妨げられている本件土地につき、免除制度の特例を適用して、検査済証を交付された建物等の建築を求めることの不合理性を主張するものと解することができる。しかし、免除制度の特例は、既に説示した経過により、三大都市圏における地価高謄に照らして時限的に法六〇三条の二第一項二号の要件を加重したものであって、その目的において合理性を有し、その方法においても一般的な合理性を有するものであるから、このような免除制度の特例が適用されないことについて一般的な信頼あるいは原告の個別的信頼が生じたとする事情は見出し難い。また、ある土地の利用が第三者の行為によって妨げられているとしても、第三者の行為の適法性の有無あるいは土地利用に関する紛争は、当該第三者との間で、最終的には民事訴訟によって解決されるべきものであるから、特別土地保有税の納税義務の免除要件の認定において、第三者の行為の適否に立ち入ることは予定されていないものというべきである。そして、特別土地保有税の納税義務の免除要件の認定において外観的基準によるべきであるとされる理由は要件認定の困難性のみならず、認定の恣意性の排除にあることからしても、右要件の認定に当たっては、客観的かつ外観的判断によるべきものであり、第三者の行為の故に特別土地保有税の納税義務が免除されることにつき保護すべき信頼が生ずる関係にもないのである。また、第三者の行為について道路管理等に係る行政上の措置が想定されるとしても、特別土地保有税の納税義務の免除要件の認定において行政上の措置の可否、当否を考慮すべき根拠はなく、右権限の行使がないが故に納税義務が免除されるとの信頼が生じていたということもできない。
したがって、この点についての原告の主張は採用することができない。
三 本件処分の適法性
以上によれば、本件土地については、特別土地保有税の納税義務免除の要件を欠くものというべきであり、原告の本件土地に係る特別土地保有税の納税義務の免除申請に対し、免除しないとした本件処分に違法は存しないものというべきである。
第四 結論
以上の次第で、原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 富越和厚 裁判官 團藤丈士 水谷里枝子)